映画「オーバーフェンス」感想:山下敦弘監督の独特の笑いと気持ち悪さが漂う【ネタバレ】

映画オーバーフェンス

映画「オーバーフェンス」を観てきました。

2010年の熊切和嘉監督「海炭市叙景」、2014年の呉美保監督「そこのみにて光輝く」に続く、佐藤泰志原作の映画化です。第3段かつ最終章としての山下敦弘監督「オーバーフェンス」です。

と言いつつ、私は「海炭市叙景」も「そこのみにて光輝く」も観ていません。私の興味は、山下敦弘監督が半分、オダギリジョーや松田翔太、蒼井優という実力派のキャストが半分といった感じです。

そういった背景から、私なりの感想と考察を書きたいと思います。

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根底に脈々と流れる「気持ち悪さ」

良い意味での「気持ち悪さ」です。

山下敦弘監督の過去作

私の中で山下敦弘監督といえば、「リアリズムの宿」(2003年)である。つげ義春の漫画を映画化した「リアリズムの宿」は、出会った男女3人のアテのない旅を描いたロードムービー。顔見知りではあるが友達ではないという微妙な距離感の男2人、服や鞄が海に流されたという謎の女が、コントのような笑いを誘います。それでも最後には、男2人が汚い旅館で並んだ布団に寝ながら、絆が芽生えていく様がとても面白かったです。「リアリズムの宿」は随所で笑える一方で、人物の距離感、突発する不思議な出来事、何となく嫌ーな感じ、といった「気持ち悪さ」が独特の魅力を放っていました。

時は流れ、山下敦弘監督の「マイ・バック・ページ」(2011年)は、ハッキリ言って全く面白くなかったです。「マイ・バック・ページ」は学生運動が盛んだった1970年前後の、記者・ジャーナリストと、取材対象の活動家の話です。真面目な回想録の映画だと思いますが、全然しっくり来ないというか、山下敦弘監督には合っていなかったということだと思っています。

オーバーフェンスでの「気持ち悪さ」

そして、「オーバーフェンス」(2016年)では、「リアリズムの宿」に流れていた山下敦弘監督の「気持ち悪さ」が戻ってきました。

職業訓練校に通う同課生の微妙な距離感、突然怒り出したり泣き出したりする登場人物、まさに「リアリズムの宿」にもあった嫌ーな感じが、「オーバーフェンス」にも脈々と流れています。これぞ、山下敦弘監督らしい作品だと思います。

特に、オダギリジョー演じる主人公の白岩が、居酒屋で楽しそうに笑って飲んでいる若者たちに、「そうやって笑っていればいい、すぐに笑えなくなる」と説教とも、愚痴ともつかない、謎の怒りをぶつけるシーンは、最も印象的に気持ち悪いところでした。

オーバーフェンスのあらすじと魅力と

オーバーフェンスのあらすじに合わせて魅力を語りたいと思います。

映画オーバーフェンス

登場人物の閉塞感と、それぞれの距離感

オーバーフェンスの舞台となるのは、北海道の函館にある職業訓練校です。都会からの出戻り者や田舎に生まれたまま暮らしている者、若者から中年から年寄りまで、バックグラウンドの異なった登場人物たちが集まっています。職業訓練校の同課生たちは、大工になりたいと思ってはいないけれど、毎日大工の仕事を実習している。この登場人物たちが持ち合わせる閉塞感と、微妙な距離感が山下敦弘監督には合っている題材だったと思います。

壊れているという聡(さとし)と、壊すほうという白岩

職業訓練校に通う主人公の白岩(オダギリジョー)は、同課生の代島(松田翔太)に連れられて友達の店だというキャバクラに行きます。そこのキャバ嬢の聡(蒼井優)と仲良くなっていきます。

聡は鳥の求愛行動を真似たり、「名前で苦労したけれど親のことは悪く言わないで、頭が悪いだけでだから」と言ってのけたり、かなりエキセントリックです。過去に何があったかは明らかになりませんが病んでいるようです。

一方で、白岩は、東京で妻と子供と暮らしていたが、仕事に忙しく、病んでいった妻に気付けなかったことを悔いています。離婚して故郷の函館に戻ってきたものの、過去に囚われたまま、結婚指輪も外せない状態です。

そんな2人が、他人から見れば危ういような関係で、恋に落ちていきます。オーバーフェンスの名の通り、何かしらの障壁を超えていきたいという意志を感じるクライマックス~ラストシーンは見ごたえがあります。

魅力的なキャスト陣

実力派が揃ったという感じでしょうか。主人公の白岩をオダギリジョー、病んでいるヒロインの聡を蒼井優、田舎でヤンチャな感じの代島を松田翔太と、役の特徴にあった鉄板の布陣に思えます。

脇を固めるキャストもすごく良かったと思います。特に、大学を中退して職業訓練校に通いながら、周りを見下しつつも自分も上手くやれないという、ありがちな閉塞感を持つ若者を演じた満島真之介はキラリと光っていました。

年金暮らしながら職業訓練校に通う勝間田を演じた鈴木常吉もめちゃくちゃ良かったです。歳が離れていながら、若者から親しまれ、ちゃんと敬われているというキャラが滲み出るようでした。

面白かった!でもパンチに欠ける

ということで、いいところばかり書いたものの、映画を通してみると、パンチに欠けると言わざるを得ないと思います。原作は全く知らなかったのですが、奇しくもその通り、短編集の中の1編みたいだなと観終わったときに思いました。面白いんだけど、この1作品だけでは弱い・・・と感じました。

最後に

「リアリズムの宿」で見られ、「マイ・バック・ページ」には全く無かった、山下敦弘監督らしさの笑いと気持ち悪さが戻ってきました。そういう意味で、監督ファンにとっては面白い作品でした。一方で、パンチに欠けるという思いもあり、今後の作品での更なるパワーアップを期待したいです。

オーバーフェンスは「黄金の服」に収められている短編作品ということで、原作も気になります。

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